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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1034号 判決 1967年7月04日

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人中村登は控訴人に対し、別紙目録記載の土地につき所有権移転登記手続をせよ

仮りに右請求が認容されないときは被控訴人横川富士作は控訴人に対し、金一、四〇四万一、二五〇円およびこれに対する昭和四〇年一〇月二日から右完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用はは第一、二審とも被控訴人等の負担とする」との判決を求め、被控訴人等代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、被控訴人等代理人において、本件土地の買戻期間について従来の主張を、右買戻期間は遅くとも売買契約成立の日から六ケ月以内との約であつたと改めると述べ、控訴代理人において、証拠として当審証人井上直彦の尋問を求めたほか、すべて原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する(ただし、原判決四枚目―記録二五丁―裏一一行目に「井上直義」とあるのは「井上直彦」の誤記と認められるからそのように訂正する)。

理由

一、まず控訴人の被控訴人中村登に対する請求の当否について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第一、第二号証に原審および当審証人井上直彦の証言、原審における被控訴人横川富士作(後に措信しない部分を除く)、同中村登ならびに控訴人(第三回)の各本人尋問の結果と弁論の全趣旨を総合すると、控訴人は昭和三五年一一月四日、被控訴人横川富士作から金三五〇万円を利息月三分五厘と定め、弁済期については特に具体的に期日を指定せず、貸付後概ね六ケ月位の間に返済するとの了解の下に借り受けるにあたり、同債務を担保する目的で、控訴人所有にかかる別紙目録記載の土地(以下本件土地という)の所有権を同被控訴人に移転し、同被控訴人は控訴人が右貸金元金および利息を完済すれば同土地の所有権を控訴人に返還することを約し、同年同月五日登記原因を売買として同被控訴人を取得者とする所有権移転登記手続を経由したことが認められる。

控訴人は、同人は被控訴人横川に対し、本件土地の所有権を移転する意思はなく、ただ右債務を担保するため抵当権を設定すべきことを約諾したにすぎないから、右所有権移転登記は実質上の権利関係に合致しないものであると主張し、成立に争いのない甲第三、第四号証の各一の記載および原審における控訴人本人尋問の結果(第一、二回)中には右主張にそう部分があるが、同部分は前掲各証拠と対比してたやすく信用することができない。

また、被控訴人横川は、本件土地は控訴人より買戻期間を六ケ月と定めて買い受けたものであると主張し、原審証人白石匠の証言および原審における被控訴人横川富士作の本人尋問の結果中には右主張にそう部分があるが、同部分も前掲各証拠と対比してたやすく信用することができない。しかして他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  つぎに、被控訴人中村が同横川から本件土地を買い受けたことは当事者間に争いがなく、前顕甲第二号証および原審における被控訴人中村登の本人尋問の結果によると、被控訴人中村は昭和三九年三月一二日同土地を代金一、〇〇〇万円で買い受け、即日その旨の所有権移転登記手続を経由したことが認められる。原審における控訴人本人尋問の結果(第二回)中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して信用することができず、他に右認定を防げる証拠はない。

(三)  さらに、原審における証人井上直彦の証言によると、本件土地の価額は控訴人が被控訴人横川にその所有権を移転した昭和三五年一一月当時において六、七百万円程度のものであつたことが認められる。原審における控訴人本人尋問の結果(第三回)中右認定に反する部分はたやすく信用することができず、他に右認定を妨げる証拠はない。

(四)  以上(一)ないし(三)に認定した事実によれば、被控訴人横川は控訴人に対し、金三五〇万円を期限を定めず貸与し、控訴人は右債務の担保として、本件土地の所有権を被控訴人横川に移転したものと認めるべきである。ところで、右債務につき弁済期の到来した事を認めるに足る証拠はないけれども、譲渡担保権者が担保の目的物を第三者に譲渡した場合には、その譲渡がたとえ弁済期の到来前になされたとしても、第三者は有効に所有権を取得するものというべきであるから被控訴人横川から右土地を買い受けた被控訴人中村は、被控訴人横川と控訴人との間の内部的な債権関係によつてなんらの影響を受けることのない完全な所有権を取得したものというべきである。

してみれば、控訴人が、その主張のとおり被控訴人中村に対し、同横川より借り受けた本件貸金元金および利息に相当する金員を弁済のため供託した事実があるとしても、これにより同中村が控訴人に対し本件土地の所有権移転登記手続をなすべき義務を負うにいたるいわれはないものといわねばならない。

なお、控訴人は、被控訴人中村が本件土地につき控訴人は買戻権の登記を有しないから買戻に応じられないと主張するのは権利の濫用であると云うけれども、同被控訴人はそのような主張をしているわけではなから、控訴人のいうところはその前提を欠くものであつて失当である。

そうだとすると、控訴人の被控訴人横川に対する請求は理由がないから棄却をまぬがれない。

二、つぎに、控訴人の被控訴人横川富士作に対する請求の当否について判断する。

控訴人の同被控訴人に対する請求は、被控訴人中村に対する請求が理由のないことを前提としてなすものであつて、いわゆる主観的予備的請求の併合にあたるものであるが、そのような予備的請求の被告とされた者にとつてはその請求の当否についての裁判がなされるか否かは他人間の訴訟の結果いかんによることとなるわけであつて、応訴上著しく不安定、不利益な地位に置かれることになり、原告の保護に偏するものであるから、かかる訴訟形式は許されないものと解するのが相当であり、しかも併合された予備的請求はこれを分離するとそれ自体としては条件付訴として不適法なものになるといわねばならないのである。

したがつて、右請求は不適法として却下すべきである。よつて、以上の判断と同趣旨の原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないから、民訴法三八四条一項によりこれを棄却し、控訴費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

別紙

目録

千葉市富士見町五三番の三

一、宅地 一〇七坪(換算三五三・七一平方米)

ただしその換地

二工区B六六街区二〇〇坪(換算六六一・一五平方米)

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